平成29年6月に成立された住宅宿泊事業法(民泊新法)により、個人オーナーが民泊運営を行う成功事例が急激に増加しました。
マンションの一室からでも民泊運営が始められる時代になり、投資対象としても注目されています。
今回はマンションで民泊運営を始める際に確認しておくべきこと・注意点・営業開始までの流れなどを解説していきます。
マンションで民泊運営ができる場合とできない場合
マンションで民泊運営を開始したい場合、一定の条件をクリアしていれば運営が可能です。まずクリアすべき条件はマンションの規約・契約内容です。
分譲マンションは管理規約をチェック
分譲マンションで民泊運営を始める際には、まずは管理規約をチェックしなければいけません。
国土交通省のサイトの「マンション標準管理規約(令和6年6月7日改正)」のコメントには住宅宿泊事業については「可能か禁止かを明記することが望ましい」、旅館業法の簡易宿所ついては「通常の用途には含まれず可能としたい場合は明記が望ましい」との記載があります。
このように管理規約に民泊に関する明記があればそれに従う必要があり、記載がない場合には管理組合等で協議を行う必要があります。
賃貸マンションはオーナー承諾が必要
賃貸マンションでは賃貸借契約書に民泊に関する禁止条項がないかを確認します。禁止条項がなければ、オーナーか管理会社に確認をとり、民泊の届出を行う際にオーナー(賃貸人)の承諾書が必要となります。
所有者が賃貸人、管理会社が転貸人に当たるようなサブリースマンションでは、両方の承諾が必要となります。
民泊運営に必要な許認可
マンションの規定や契約内容をクリアできたら、法律に則った運営をしなくてはいけません。民泊運営の法律は3種類あり、それぞれ特徴が異なります。
民泊新法
民泊新法は多様化する旅行ニーズに対応や民泊にまつあわる社会問題解消のためにするために平成29年6月に成立された法律です。
後述する旅館業法では13の用途地域のうち、第二種住居地域などの6地域でのみの運営となりますが、民泊新法ではマンションなどが建てられる代表的な地域「中高層住居専用地域」を含む12地域で運営が可能です。(条例での制限はあり)
すなわちマンションでも運営できる可能性が高いのが、民泊新法になります。
一方で、民泊新法では年間提供日数180日以内といった制限が設けられている点も大きな特徴になります。
旅館業法(簡易宿所)
旅館業法は先述の通り、運営できる地域が限られます。許認可も民泊新法の「届出」に対し、「許可」となるため、難易度も上がります。
一方で営業日数に制限が設けられないため、収益の最大化が図れるのが最大のメリットとも言えます。
特区民泊
特区民泊は、外国人旅行者の長期滞在を促す目的で旅館業法の一部規制を緩和した制度で、旅館業法(簡易宿所)と同様に営業日数に制限がありません。一方で、2泊3日以上といった最低宿泊日数が設定されています。
運営ができる地域は、国家戦略特区の区域として指定された地域のみとなっており、2025年時点では東京都大田区・千葉市・新潟市・北九州市・大阪府・大阪市のみが指定地域となっています。
民泊新法・簡易宿所・特区民泊の簡易比較表
民泊新法・簡易宿所・特区民泊それぞれの違いを一覧表でまとめました。
| 旅館業法 (簡易宿所) |
国家戦略特区法 (特区民泊に係る部分) |
住宅宿泊事業法 | |
|---|---|---|---|
| 所管省庁 | 厚生労働省 | 内閣府 (厚生労働省) |
国土交通省 厚生労働省 観光庁 |
| 許認可等 | 許可 | 認定 | 届出 |
| 住専地域での営業 | 不可 | 可能 (認定を行う自治体ごとに、制限している場合あり) |
可能 条例により制限されている場合あり |
| 営業日数の制限 | 制限なし | 2泊3日以上の滞在が条件 (下限日数は条例により定めるが、年間営業日数の上限は設けていない) |
年間提供日数180日以内 (条例で実施期間の制限が可能) |
| 宿泊者名簿の作成・保存義務 | あり | あり | あり |
| 玄関帳場の設置義務 (構造基準) |
なし | なし | なし |
| 最低床面積、最低床面積 (3.3㎡/人)の確保 |
最低床面積あり (33㎡。ただし、宿泊者数10人未満の場合は、3.3㎡/人) |
原則25㎡以上/室 | 最低床面積あり (3.3㎡/人) |
| 衛生措置 | 換気、採光、照明、防湿、清潔等の措置 | 換気、採光、照明、防湿、清潔等の措置、使用の開始時に清潔な居室の提供 | 換気、除湿、清潔等の措置、定期的な清掃等 |
| 非常用照明等の安全確保の措置義務 | あり | あり(6泊7日以上の滞在期間の施設の場合は不要) | あり(家主同居で宿泊室の面積が小さい場合は不要) |
| 消防用設備等の設置 | あり | あり | あり(家主同居で宿泊室の面積が小さい場合は不要) |
| 近隣住民とのトラブル防止措置 | 不要 | 必要 (近隣住民への適切な説明、苦情及び問合せに適切に対応するための体制及び周知方法、その連絡先の確保) |
必要 (宿泊者への説明義務、苦情対応の義務) |
| 不在時の管理業者への委託業務 | なし | 規定なし | 規定あり |
参照:https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/overview/minpaku/index.html
マンションで民泊を始める手順
マンションで民泊を始めるとすると下記のような流れになります。
- 管理規約・賃貸借契約書の確認および賃借人及び転借人の承諾
- 民泊新法・簡易宿所・特区民泊の選定
- 自治体の条例確認
- 消防法令の基準を満たす
- 届出・許可
管理規約・賃貸借契約書の確認および賃借人及び転借人の承諾
分譲マンションの場合は管理規約で禁止されていないかを確認し、禁止されていない場合でも管理組合において禁止の方針がないかの確認が必要です。
賃貸マンションの場合は賃貸借契約書で禁止されていないか確認し、賃借人及び転借人の承諾が必要になります。
民泊新法・簡易宿所・特区民泊の選定
規約や契約上はマンションでの民泊運営が可能である確認が取れたら、民泊新法・簡易宿所・特区民泊のどの形態で運営を行うかを決めましょう。まずは、エリアや物件自体が適合しているかを確認し、適合している場合は収益性や許認可ハードルを勘案して決めていきましょう。
自治体の条例確認
民泊運営では民泊新法・簡易宿所・特区民泊の法律とそれぞれの自治体で定めている条例をクリアしなければいけません。自治体の条例もクリアできるか確認しましょう。
消防法令の基準を満たす
民泊運営は消防法令の安全基準も満たさなければいけません。
マンションで民泊運営をする場合は、自動火災報知設備の設置、誘導灯の設置、防炎物品の使用、消防用設備等の点検報告が求められる場合があります。
届出・許可
ここまでの基準を満たしたらそれぞれの法律を管轄する部署へ届出・申請を行います。
民泊新法では届出、簡易宿所では許可・特区民泊では認可が完了することで営業が可能になります。
マンションでの民泊は運営代行会社へ相談
マンションで民泊を始めたいと思ったらまずは運営代行会社へ相談することをおすすめします。
民泊の営業が開始できるまでにやるべきことはかなり多くあります。ひとりで調べて進めるにはかなりの労力を必要とします。
いずれにしても民泊管理はほとんどの場合に住宅宿泊管理業者(運営代行会社)へ委託することになります。そのため、早めに相談することで無駄に時間を使わなくて済むでしょう。

